カスプトラップ法という、反水素ビームを取り出せるこれまでにない合成装置を開発し、反水素の大量合成を実証した。平行して、八重極コイルとミラーコイルを組み合わせた磁気瓶への反水素原子の捕捉にも成功した。これらの成果により、反水素原子の高精度分光によるCPT対称性テストがいよいよ目と鼻の先に来た。冷反水素を用いた反物質研究にとって、重要な意味を持つ年になったといえる。 カスプトラップ法は、同軸上に置かれたコイルの対に逆方向の電流を流すことによりカスプ磁場を発生させ、その中に反陽子と陽電子を同時に閉じ込め、そっと混合することで反水素原子を生成するものである。生成された反水素原子はカスプ磁場により軸方向に収束され、ビームとして引き出されることになる。今年度の実験では~3x105個の反陽子とほぼ10倍に当たる~3x106個の陽電子を混合し、~7x103個の反水素を得た。また、生成率が混合直後からどう変化するかを観測することにも成功し、反水素生成過程についての知見も得られた。反水素原子の超微細遷移のマイクロ波分光への道を初めて拓いたといえる。 八重極コイルとミラーコイルの組み合わせによる磁気瓶は、従来の四重極コイルとミラーコイルの組み合わせより、中心軸付近の磁場一様性が高く、反陽子や陽電子の蓄積には好都合である。この特性を生かし、且つ、荷電粒子に対する蒸発冷却法を開発することにより、極低温の反水素を合成し、計38個の反水素が捕捉された。反水素原子の1S-2S遷移のレーザー分光への道を初めて拓いたと考えている。
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