当研究では、地震波走時トモグラフィーモデルに基づく長波長イメージと広帯域波形解析から導かれた比較的短い波長の速度構造の情報を統合し、北西太平洋沈み込み帯のマントル遷移層でより現実的な3D速度構造の構築をめざしている。今年度は、スタグナントスラブ(SS)に伴い660km付近の相転移の深さが下降したり(モデルM3.11)しなかったり(M2.0)という違いの分布に注目し、解析とモデル構築を進めた。 1.相転移の深さの変化は、スラブによる低温異常のみで説明するには急激過ぎるので、最近の高温高圧物性実験とレオロジー実験の結果を参考にし、MORBに由来する沈み込んだ地殻とペリドタイト層が、遷移層最下部相転移の深さで隣接して存在しているモデルで説明できることを提起した(論文投稿中)。 2.広帯域地震波形と有限差分法(e3d)のコードを用い、SSを含んだ3D速度構造モデルの構築を行っている。標準モデルiasp91にトモグラフィーモデルが捉えている高速度異常のイメージを付加して初期モデルを構築し、理論波形と観測波形との比較を行った。E3dによる波形計算の利点は、遷移層の深さを強くサンプルしたりージョナルな波形を使う際、「地球シミュレータ」上では1km位のメッシュ間隔でモデリングすることが可能であり、又、長波長の速度構造が入ったモデルに、微細構造の解像度の高い(比較的短波長の)モデルデータを別々に重ねで入れていくことが出ざるので、段階的に3次元マントルモデルを構築していくには適したコードである。 広帯域波形は、長波長のトモグラフィーでは識別できない複雑な微細構造を捉えており、温度効果と水や化学組成の効果を考慮した微細構造を決め、物理的背景やメカニズムを探る上で利点がある。この解析は、遷移層内の比較的波長の短い不均質性に関する解像度を持っており、トモグラフィーを用いた研究に対し相補的である。
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