研究概要 |
本研究は,研究代表者が進める輸送過程に関する地球内部物質の特性解明の一部として,スラブーマントル反応による元素移動多様性の実験的研究を提案する。マントル遷移層に到達して周囲のマントルと熱平衡化学平衡に向かう条件でメルト(流体)移動,元素拡散,による混合が進行する。しかし,スラブサイズの完全な均一化は活発な対流運動渦の中でも困難であり,元素種と鉱物特性によって特徴的な不均一性を生ずることが考えられる。本研究の目的は,スラブ停留条件の玄武岩物質とマントル・ペリドタイトの反応実験を行う。高精度微量元素分析により,相平衡関係,元素分配関係だけでは理解できない元素移動度の多様性を明らかにし,遷移層,最上部下部マントルのスタグナント・スラブに起源を持つ地球化学的起源領域の特性を検討する。 (1) 九州大学では平成15年4月研究代表者の移動に伴い,理学部付属工場に中型キュービック装置を設置した。一段式8mm角で約5GPaまでの高圧合成装置として,本年度研究発表の合成実験を行った。 (2)沈み込むスラブの中で最も特徴的な微量元素供給源は海洋プレート上面を構成する玄武岩である。我々は,マントルの起源領域が,単純なペリドタイトと玄武岩およびその由来成分の混合によって生成されるのではなく,元素移動特性とペリドタイトの組織に支配された元素移動効率が重要であると考え予備的な実験解析を行った。実験は,玄武岩-ペリドタイト試料に対し,玄武岩は部分溶融,ペリドタイトは固体の条件下3GPa,1300℃,10〜60分で行った。境界から離れたペリドタイト中にも,玄武岩起源の微量元素の増加が検出され,そのパターンは,従来想定されている単純な玄武岩メルトの付加では説明が困難である。この理由として粒界拡散を元素移動の素過程としたモデルに基づいて解析を進め,数度の学会発表を経て,論文投稿中である。
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