研究概要 |
地球の全体積の半分以上を占めている下部マントルは、主に鉄を含む珪酸塩ペロブスカイト(〜75%)とマグネシオウスタイト(〜20%)から構成されている。最下部マントルの数百kmの領域では、ペロブスカイト構造はより高密度であるポストペロブスカイト構造へと相転移する。下部マントルの地震波トモグラフィの結果を物質科学的に理解するためには、下部マントル物質の弾性波速度を測定することが重要である。本研究課題では、高温・高圧力下での核共鳴非弾性散乱測定法を確立し、下部マントル物質中での鉄原子の振動状態から下部マントル物質の弾性波速度を導きだすことを最終目的としている。 最近放射光を利用した分光測定により、二価の鉄を含む珪酸塩ペロブスカイトの高圧力下での鉄原子のスピン状態の研究が盛んに行われている。その結果,下部マントル条件では、二価の鉄原子は高スピンと低スピンの中間状態である,という提案が受け入れられ始めている。しかし、下部マントル条件下での珪酸塩ペロブスカイト中の鉄原子は、約50%が三価の状態で存在していると考えられている。すなわち、三価の鉄原子の鉱物物性への影響を無視することはできない。我々は、核共鳴ブラッグ散乱を利用した超単色X線を用いた、放射光メスバウアー吸収分光法により、ペリドタイト組成の珪酸塩ペロブスカイトおよびポストペロブスカイト中の鉄原子の電子状態の理解に焦点を当て超高圧力下実験を実施した。高温高圧力(144GPa, 2000K)下で合成したポストペロブスカイトに関して、予備的な解析ではあるが約50%の三価の鉄が存在し,高スピン状態にあることを示唆する結果がその場観察により初めて得られた。
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