ボロンがドープされたダイヤモンドの超伝導の発見を契機として、キャリアドープされた半導体の超伝導が注目を集めている。本研究の目的は、(1)高温超伝導物質開発への提言、(2)エキゾチックな超伝導物質設計への提言、(3)乱れの効果が導く新しい物理概念の創出、という観点から、この分野の研究の推進に貢献することである。対象物質として半導体ナノチューブを含む。ドープされた半導体という新しい超伝導物質を扱う独創性を持ち、物質設計指針の構築という意義を有する。同時に、乱れの効果が導くクーパー対の散乱・局在機構という新概念の創出を目標とする。 今年度は、特に次の2点を明らかにした。(1)乱れによるクーパーペアの散乱・局在メカニズムの解明。すなわち、ボロン・ナイトライドのナノチューブにフッ素をドープした系を対象に、引力型ハバード模型における不純物効果を密度行列繰り込み群という数値的主法を用いて計算し、局在と超伝導の競合関係を明らかにした。クーパー対は形成されるが、乱れの効果によりそれが局在してしまい、系が超伝導にならないという状況が、ダイヤモンド超伝導で観測される絶縁体-超伝導体転移の近傍の状況に類似しておりことを明らかにした。(2)ドープされた半導体ナノチューブに対し、BCS平均場理論の範囲で不純物効果を計算し、有限温度での系の性質を調べた。現在は、模型の定量化と関連物質における超伝導の可能性の追求を行うため、数値計算手法の拡張を試みている。
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