本研究は、1次元系および幾何学的フラストレーションに起因する電子相のゆらぎを活用して、磁気抵抗を増幅するとともに、機構を明らかにすることが目的である。巨大な磁気抵抗劾果を示すフタロシアニン分子系伝導体TPP[Fe(Pc)(CN)_2]_2を主な研究対象としている。この磁気抵抗を理解する上で、本物質の基底状態を解明すること不可欠である。そこで19年度では、基底状態における電荷状態について精査するため、放射光施設SPring-8(BLO2B1)において真空IPカメラの高精度検出器を用いてX線回折実験を行った。X線回折を行う上で試料に含まれるFeからの蛍光が実験の障害となる。そこで蛍光と回折信号を峻別するために、X線のエネルギーはFeの波長から離れた20keVに調整して行った。実験の結果、1次元伝導方向の格子定数に対して2倍周期の散漫散乱(diffuse streak)を発見した。これは電子相関に起因した電荷の不均一性(電子密度の濃いサイトと薄いサイトが周期的に交互に並んでいる状態)に起因したものであると考えられる。低温になるにつれて散漫散乱の強度は増加するが、電気抵抗の増加に対応しており、本物質の絶縁化が電子相関効果によることがはっきりした。また、低温の6Kでも1次元鎖垂直方向はdiffuseのままであることから垂直方向の相関が極めて弱く、1次元性の強い系であることが分かる。今後はより低温で測定を行い散漫散乱の異方性の測定や、広範囲における回折ピークの測定から精密な構造解析を行っていきたい。
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