研究概要 |
本研究では,コバルト酸化物Na_xCoO_2に観測される電気と磁気そして熱の交差効果を理論的に調べた.手法としては,拡張されたretraceable-path methodを用い,熱起電力やホール係数,さらにはネルンスト効果の係数など,熱磁気応答の応答係数を計算した.これは,基本的には高温展開であり,久保公式が与える高温極限の値からのアプローチである.この酸化物の磁性と伝導を担うのはCoO_2層のt_<2g>電子系である.電子間の強いクーロン相互作用は,局所的なスピンと軌道の自由度を引き出す.我々は,t_<2g>電子の飛び移り積分が篭目格子を形成し,Coイオンが形作る三角格子はt_<2g>軌道の縮退を反映した4つの篭目格子に分解されることを見出した.また,CoO_2層および軌道配置の対称性から,電子の飛び移り積分が正の符号を持つことがわかる.スピンと軌道の自由度が導く局所的な電子状態の縮退は,熱起電力の増大に結びつき,篭目格子の構造と飛び移り積分の符号は,高温極限から温度の減少に伴い単調に減少する関数形を導くことがわかった.ネルンスト効果の係数についても同様に,篭目格子の構造と飛び移り積分の符号を通して,軌道の役割が重要であることが明らかとなった.本研究の理論からの帰結として,高温でR_Hが正であり線形の温度依存性を示すときには,ネルンスト効果の係数が正であり温度に逆比例することが予想される.実験的な検証が期待される.
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