銅酸化物における高温超伝導の発見以来、20年の年月が経過したが、遷移金属化合物において、銅酸化物に匹敵する超伝導転移温度を持つ物質はいまだに発見されていない。銅酸化物には、2次元、単一軌道系、モット転移近傍、強い反強磁性揺らぎ、など様々なキーワードがあるが、これらをすべて満たす物質は、自然界に自明に存在しないかのように思われる。そこで、圧力という外部パラメータを導入し、銅酸化物と似た電子状態を銅酸化物以外の物質で実現させる可能性を考えている。本年度は、昨年度にすでに予備計算をはじめていたバナジウム酸化物の電子状態計算の本計算を実行し、その結果を公表した。 バナジウム酸化物は、バナジウムイオンあたり一つの電子が存在する、いわゆるd^1系であり、銅イオンあたり一つの正孔が存在するd^9系と、電子正孔変換で関連づけられる可能性を秘めた系である。しかしながら、常圧下では、軌道縮退のため一軌道あたりのキャリア数は銅酸化物の場合と違って1からかけ離れた値になる。そこで、一軸性圧力を加えることで軌道の縮退をとき、銅酸化物と似た2次元単一軌道系を実現させる可能性を、密度汎関数理論に基づく第一原理計算によって行った。通常の外部圧力のほか、chemical pressureの活用の可能性などについても未知物質のシミュレーションという形で検討を行った。現在は、当初の計画通り、この第一原理計算を出発点として詳細な多体効果の計算を行うことを念頭に汎関数繰り込み群の方法論開発に従事している。 また、ユニークな超伝導体であるコバルト酸化物における高い熱起電力に触発され、強相関第一原理計算の方法を銅物質をはじめとする高い熱起電力をもつ物質に適用し、その起源を探ると同時に高効率熱電材料の設計を行う研究も展開している。
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