研究概要 |
マルテンサイト変態による形状変化を利用し熱を直接機械的エネルギーに変換する形状記憶合金は,エネルギー密度が圧電材料の約1000倍高く,形状変化が変態温度で起こるので温度センサーとしての機能も併せ持つ。従ってアクチュエータ素子の大幅な小型化・簡略化・低コスト化が可能であり,特に複雑な機械機構の適用が難しい極低温の様な極限環境下におけるアクチュエータ素子の駆動に適している。しかし,極低温形状記憶合金の特性は未開拓の分野である。本研究では極低温アクチュエータの駆動素子に適用できる形状記憶合金を開発する。 本年度はTiNi系形状記憶合金を強加工と熱処理により、ナノ結晶化することによる変態温度の低下について調べた。Ti-50.2mol%Ni合金を高圧ねじり加工などで非晶質化し、その後673K以下の温度で1時間熱処理することで、直径数10nmのナノ結晶状態を得た。得られた試料について示差走査型熱量計でマルテンサイト変態温度を測定した。その結果、結晶粒の微細化はR相変態温度を若干上昇させる他、B19'マルテンサイト変態温度(Ms)を大きく低下させるとともに変態温度幅(△M=Ms-Mf)を広げる効果があるが、逆変態温度はそれほど大きく低下させないことが明らかになった。従ってナノ結晶下では形状回復温度を低下させることができないことを示している。
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