熱電変換材料の性能は無次元性能指数ZT(=S^2T/(pxκ)、S;ゼーベック係数、T;動作温度、p;電気抵抗率、κ;熱伝導率)によって決まるが、これらのパラメータは物質中におけるキャリア密度や材料の微細組織の影響を強く受けるため、その性能の向上には原子レベル(〜nm)から結晶粒レベル(〜μm)までの幅広い範囲にわたる形態制御(パノスコピック形態制御)が必要である。本研究はスクッテルダイト化合物や希土類ヘビーフェルミオン化合物などの包接型化合物について、ボイドへの元素挿入を行ったり、メカニカルミリング等、粉末冶金的手法により結晶粒径を制御したり、添加物を微細分散させることにより階層的な形態制御を行い、熱電変換材料としての性能の向上を図るものである。本年度は、希土類充填スクッテルダイト化合物CeFe_3CoSb_12について、電気伝導性酸化物MoO_2を添加してミリング処理により微細分散させたCeFe_3CoSb_12-MoO_2複合焼結体を作製し、その熱電特性を評価した。MoO_2を添加することによりCeFe_3CoSb_12-MoO_2複合焼結体のゼーベック係数はCeFe_3CoSb_12に比べて減少したが、電気抵抗率および熱伝導率も減少したため、CeFe_3CoSb_12とMoO_2の混合モル比が0.95:0.05である複合焼結体において、773Kで最大1.22のZTが得られ、これまでこの系における報告値の最大値1.1を上回った。また、希土類ヘビーフェルミオン化合物YbAl3について、その結晶中におけるボイドにMnを挿入したMn_xYbAl_3を作製した。Mnを添加することによりゼーベック係数は減少、電気抵抗率は若干増加したが、熱伝導率については大幅な減少が観察され、この系におけるボイドへの元素充填が熱伝導率の低減に非常に有効であることが確認された。
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