研究概要 |
量子スピンホール相を示す物質を、半金属ビスマスの関連物質を中心に探索した。この相になるための必要条件は2つだけで、(i)非磁性絶縁体、(ii)Z2トポロジカルナンバーが奇数、である。この(ii)の条件の判定は波動関数の位相と関係しているが、判定は厄介でありバンド計算などの助けを借りる必要がある。我々は以前、1-bilayer (111)ビスマス薄膜が量子スピンホール相を示すという予想を行ったが、今年度はこれを実証するため第一原理計算を行って、実際1-bilayerのビスマス薄膜が量子スピンホール相となることを理論的に提唱した。また金属系のスピンホール効果の第一原理計算も並行して行った。特にプラチナではスピンホール効果が大きいことが実験で観測されているが、第一原理計算の結果、この巨大なスピンホール効果が内因性、つまりバンド構造による効果であって不純物散乱には依存しない機構によることを提唱した。また物質探索の準備として、スピン軌道相互作用などの外部パラメタの変化に対してどのように絶縁相から量子スピンホール相へ転移するか、一般的な枠組みで解析した。その結果、2次元系においては、パラメタの値を変えていくとパラメタのある一点で相転移を起こすが、3次元では一般に2相の間にギャップレスの相が挟まるということが分かった。これは3次元の場合は、ギャップレスの点がトポロジカルな構造を持つことに起因する。これはバンド計算や、清浄なサンプルでの実験でも十分観測できると考えられる。これを実証するため、Fu, Kane, Meleが提唱したダイヤモンド格子上のスピン軌道相互作用が入った模型を用いて解析し、確かに空間反転対称性が破れた場合、絶縁相と量子スピンホール相の間にギヤップレスな相が挟まることが分かった。
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