相関電子系では密度汎関数法(DFT)に基づいた標準的な第一原理電子状態計算法が困難を抱える。この問題を克服する計算方法の開発と応用を目的として研究を行った。主な成果は次の通りである。 (1) 遷移金属酸化物V02の低温相は絶縁相であるが、DFTの局所密度近似(LDA)では金属になってしまう。GW近似による自己エネルギー補正を加えるとバンドの重なりが減少するが、通常行われるLDAからの1shot GW法ではギャップが形成されず、自己エネルギー補正を考慮して波動関数と固有値を更新する必要があることがわかった。一方、高温の金属相では、自己エネルギーの強い非線形なエネルギー依存性を反映して、1粒子スペクトル関数に準粒子ピークで記述できないサテライト構造があることがわかった。波動関数の更新に関しては、いくつかの任意性が残っており、実用的な自己無撞着GW計算法の確立にむけてシリコンやNiOなどで比較検討を継続している。 (2) SiやGeの新構造体に対するGW計算を行った。この構造は体心正方構造(bct)を持ち、DFT計算で準安定であることを確かめた。この構造の電子状態をDFTとGW近似を併用して調べ、bcy-Geが半金属であることを予言した。実験室での合成が待たれる。 (3) 昨年度開発した制限RPA法を鉄系新超伝導体に適用した。Tc=26Kを示すLa-1111系の母物質であるLaFeAsOの有効パラメタを求め、中程度の相関をもつ多バンド系であることがわかった。
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