研究概要 |
当研究室では、ジメチルシリル基を有するケイ素化合物が高い反応性を示すことを見つけ、これを利用した新規有機合成法の開発を行ってきた。本研究では、エステルから誘導したα,α-ビス(ジメチルシリル)エステルを用いてアルデヒドおよびケトンのアルケン化を行い、α,β-不飽和エステルの効率的かつ立体選択的合成について検討した。酢酸エチルから誘導したα,α-ビス(ジメチルシリル)エステルを用いて検討した結果、アルデヒドのアルケン化が、DMSO中、無触媒、30℃で効率よく進行することがわかった。芳香族アルデヒドのアルケン化は高いE選択性を示したが、脂肪族アルデヒドの場合は、立体選択性が若干低下した。ヒドロキシ基やカルボキシ基のような極性官能基が存在してもアルケン化が進行した。α,β-不飽和アルデヒドとの反応では、1,3-ジエンと共役したエステルが得られた。ケトンとの反応は無触媒ではほとんど進行せず、硫酸リチウムを加えるとアルケン化が著しく加速され、高収率でβ,β-二置換-α,β-不飽和エステルを与えた。非対称ケトンとの反応では、立体選択性はあまり良くなかった。α,β-不飽和ケトンのアルケン化も硫酸リチウム存在下で効率よく進行し、1,3-ジエンを与えた。 アルデヒドおよびケトンのアルケン化によりα,β-不飽和エステルを合成する方法として、Wittig反応、HWE反応、Peterson反応がよく知られているが、これらの反応は二段階反応であり、反応活性種の調製に強い塩基を用いる必要がある。また、副生成物の分離が難しい、反応温度が低温であるなどの欠点をもつ場合もある。本反応は極めて穏和な条件下で進行し、反応操作、精製操作も簡便であることから、α,β-不飽和エステルの合成法として極めて有用であると言える。
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