有機アンモニウム塩触媒は酸としての性質にアミンの特徴を合わせ持つ酸・塩基複合塩触媒であり、アミンを適切に設計することにより様々な反応に応用することができる。生物活性物質や医薬品のなかには、硫黄原子の隣接位に不斉炭素を有する光学活性硫黄化合物がある。例えば、抗生物質として知られるチオラクトマイシン、チオテトロマイシンや抗腫瘍剤として知られるレイナマイシンなどを例として挙げることができる。また硫黄官能基は、スルホキシドやスルホンを経由するなどして様々な官能基へと変換できるため、そのエナンチオ選択的導入法の開発は重要な研究課題である。今回、我々はこれまでの有機アンモニウム塩触媒の知見を活かし、α-(アシルチオ)アクロレインのエナンチオ選択的Diels-Alder反応の研究を遂行した。合成したα-(ベンゾイルチオ)アクロレインをジエノフィルに用いたDiels-Alder反応について、α-(アシロキシ)アクロレインで有効であったトリアンモニウム塩触媒(1)を用いて検討した。その結果、51%eeで付加体を与えることが分かった。次に、1を用いて、α-アシルチオアクロレインのアシル基の検討を行った。電子供与性の高いアシル基を検討したところ、α-(パラジメチルアミノベンゾイルチオ)アクロレインにおいて82%eeと高いエナンチオ選択性の付加体が得られることが分かった。以上、私は新規化合物であるα-アシルチオアクロレインを合成し、そのエナンチオ選択的Diels-Alder反応について検討したところ、電子供与性の強いα-(パラジメチルアミノベンゾイル)チオアクロレインが触媒1存在下、高エナンチオ選択的にDiels-Alder付加体を与えることを見出した。触媒1は、α-アシロキシアクロレインとα-(ジアシルアミノ)アクロレインに対し有効な不斉触媒であることを既に報告しているが、今回新たにα-アシルチオアクロレインにも有効であることが分かった。
|