研究概要 |
水を密閉容器内で加熱すると,圧力の上昇とともに気液平衡を保ったまま温度を上昇させる事ができる。臨界点(374℃,22MPa)では,気体・液体の区別がなくなり,さらに高温・高圧条件では超臨界状態になる。この沸点を超えて臨界点に達するまでの領域は亜臨界水熱状態と呼ばれている。この様な状態の水を用いた有機合成反応がすでに開発されているが,水の疎水性相互作用や水をプロトン酸として用いる事に着目した例が多数であった。我々は亜臨界水熱条件では遷移金属触媒が容易に酸化されるという事実に着目し,炭素-水素結合の活性化を軸とする分子変換反応が水を酸化剤に用いて行えると考えた。実際に,亜臨界水熱条件下,パラジウムや白金を触媒に用いることで炭化水素化合物などの炭素-水素結合の活性化により,水素-重水素交換が可能であることを明らかにした。芳香族化合物の重水素化も可能である事を明らかにした。これらの複素環化合物の中には,光学電子材料として有用なものも多く,物性研究の対象材料として産学に提供した。 以上の重水素交換では,炭素-水素結合活性化反応を経て生成した有機遷移金属化合物が生成していると考えているが,この中間体を重水素交換だけではなく,炭素,チッ素等のヘテロ原子導入反応に使用し,有機電界発光素子の材料などに有用な分子骨格を有するカルバゾールの亜臨界水熱条件を用いた,炭素-窒素結合形成を伴った新規合成法を開発した。 亜臨界水だけではなくソルボサーマル(亜臨界有機溶媒)条件を用いても不活性結合の活性化を用いた新規反応の開発が可能であると考え,炭素-窒素結合を切断した後に不飽和結合を挿入するカルボアミノ化反応を検討した。その結果ニッケル触媒を亜臨界トルエン中で用いることで,フタルイミドの炭素-窒素結合を活性化してアルキンと反応させると,カルボアミノ化反応が進行し,医薬品合成中間体として有用なイソキノロン誘導体が効率的に合成できた。
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