アルケンとアルデヒドのニッケル(0)上での酸化的環化は、分子間反応では錯体を単離同定することはできなかったが分子内反応であれば、効率よく進行することを報告した。塩基性が高く酸化的環化を促進させやすいと考えられるIPrを配位子として利用した。この場合、原料消費は比較的短時間で終了するものの生成物であるケトンが得られるには長い時間が必要であった。本反応の適用範囲を検討する過程において、Tishchenko反応が競争反応として進行することを見いだした。これまで、ニッケルを触媒とするTishchenko反応の報告例はなく興味深い。そこで、ニッケルを触媒とするTishchenko反応の検討を行った。ニッケルを触媒としても、反応は効率よく進行し目的とするエステルを高収率で得ることができた。反応は、アルキルアルデヒド、アリールアルデヒドの両者に対して効率よく進行した。また、含フッ素アルデヒドに関しても有効であった。反応は、用いるアルデヒドに対してゼロ次であり反応の律速段階にはアルデヒドの濃度は影響を与えない。さらに、アルデヒドのカルボニル基に結合した水素を重水素に置き換した基質を用いて反応を行ったところKIE=1.9でありβ-水素脱離もしくは還元的脱離の段階が律速であることが明らかとなった。特筆すべき点としては、本触媒系は交差反応にも適用可能であるという点である。Tishchenko反応が発見されてから既に100年以上経過しているが、二種類のアルデヒドから選択的に一つのエステルを合成することに成功した反応は知られていない。このような観点から本反応は極めて有用性の高い反応であると考えられる。
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