金属-ルイス酸結合と配位子π電子系を有する新規錯体を全く新しい光ルイス酸発生剤として用い、光で反応性が制御できるルイス酸触媒を開発することを目的とする。この錯体からのルイス酸の光解離により低原子価金属-配位子dII共役系を有する錯体が生成する。実際、研究代表者は、有機金属ヒドリド錯体のヒドリド水素が可視光により効率良くプロトンとして解離して低原子価金属-配位子dπ共役錯体が生成することを見いだしている。この系のプロトンをルイス酸で置換することで、本研究で用いる錯体を合成した。同定は、NMR、IR、ESI-MS、TOF-MS等により行なった。これら新規錯体の励起状態におけるルイス酸解離能の評価を各種時間分解分光手法を用いて行い、金属-配位子dπ共役系錯体の光創製手法を探索した。新規単核および複核金属一ルイス酸錯体は、対応するアクア錯体にギ酸イオンを反応させて得た金属ヒドリド錯体と塩基との反応により低原子価錯体を得て、これをルイス酸塩と反応させる方法あるいは金属ヒドリド錯体とルイス酸塩やルイス酸ヒドリドとの光反応により合成した。フェムト秒時間分解過渡吸収スペクトルによる3重項励起状態生成過程(項間交差)の観測とその速度論解析、励起状態からのルイス酸解離過程の観測とその速度論解析を行なった。低原子価金属錯体は近赤外域にも特徴的なMLCT吸収帯を有し、この短寿命活性過渡種を分光分析するために近赤外対応レーザー時間分解分光測定装置、ストップドフロー分光法、光照射ESR等を用いた。
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