過酸化物を酸化剤とするアルカンからアルコールへの選択酸化触媒反応系の開発を行った。酵素の触媒活性点に類似した配位環境を構築することが可能な三脚型窒素三座キレート剤を金属支持配位子とし、これに様々な官能基を導入することで分子構造および電子状態が制御されたニッケル錯体触媒を調製した。過酸化水素を酸化剤とした場合にはいずれのニッケル触媒を用いても目的としたアルコールやケトンなどの含酸素化合物は得られなかったのに対し、アルキルヒドロペルオキシドを酸化剤とした場合にはケトンが優先的に生成し、さらに過安息香酸を酸化剤とした場合にはアルコールが選択的に生成した。特に電子吸引性基を導入した錯体触媒の場合にアルコールの選択性が向上することを見出した。以上のような反応選択性の違いは、酸化剤に応じて反応機構が異なること、さらに錯体触媒の微細な電子状態の差異が反応活性種の構造や反応特性に大きく影響を及ぼしているためと考えられる。 また酸化酵素における活性部位や機能の分担という生体システムの概念に則って、酸素分子を酸化剤とする炭化水素への選択酸素添加反応系の構築を検討した。ラジカル性配位子を有するコバルト錯体触媒を開発し、これがヒドロキノン類を水素および電子源とする酸素分子から過酸化水素への変換反応を触媒することを明らかにした。さらに過酸化水素を酸化剤とするアルケン類のエポキシ化に活性を示すタングステン錯体触媒を組み合わせることで、コバルト錯体触媒の作用により生成した過酸化水素を用いたアルケンエポキシ化反応系を構築した。
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