1、出芽酵母におけるGATC-PCR法によるトランスクリプトームの定量解析 出芽酵母のトランスクリプトームについて、完全培地または最小培地で培養した出芽酵母におけるmRNA量コピー数を、GATC-PCR法により定量し、全遺伝子の約8割(約5000種類)についてコピー数の計測に成功した。計測間の系統的誤差は10%以下であり、非常に再現性の高い絶対量計測を実現することができた。両培養条件間で発現量の異なるmRNA群を抽出すると、リボゾームタンパク質の遺伝子群などについては、相対的な量比より絶対量の差分が顕著であった。差分での解析は個々の分子のコピー数データに基づくものであり、細胞内分子の絶対量を包括的に計測することが、より意味のある生物学的情報を感度良く抽出するのに重要であることが示された。 2、PCS-MS法によるタンパク質の絶対定量計測技術の開発 大規模な絶対定量解析を可能にするためにPCS-MS法の改良を行った。具体的には定量のための標準であるPCSを階層的に用いることで、定量可能なタンパク質数とダイナミックレンジのスケールアップを可能にする戦略を開発した。本戦略により、約70種類のタンパク質について約100倍のダイナミックレンジでの絶対量計測が可能となった。また、解糖系酵素群のなかでは律速酵素と位置づけられたタンパク質の絶対量が最も少なかった。生体内パスウェイの全体像を捉え意味のある生物学的知見を導き出するために、絶対定計測が欠かせないものであるといえる。
|