心筋は、心臓のみに見られる筋線維が網状につながった筋組織である。心臓の発生過程において、筋線維に分化した後ギャップ結合を形成することで、細胞間のネットワークを形成し、最終的に筋組織として同期した拍動を行うと考えられる。発生学的にそのメカニズムの解析は重要であるが、その解析手法がなかった。そこで本研究において、ES細胞から筋線維を分化誘導し、その過程において、筋組織中の単一細胞に、マイクロインジェクション法により種々の物質を導入することでギャップ結合を阻害し、細胞間ネットワーク形成におけるギャップ結合の役割を解析することを究極の目的とし、本年度は以下の項目について実施した。 1.各種細胞に対するインジェクション用キャピラリーの最適設計マイクロインジェクション法は、扱う細胞の種類により、その細胞に適したキャピラリーを設計する必要がある。そこで、対象とする細胞をES細胞から分化した筋線維細胞として、その細胞に特化したキャピラリーの先端径の太さや形状について最適な設計を行った。 2.多層化筋線維の拍動パターン解析スペルミンは拍動率の低下を引き起こすが、ある条件下で作用させると、かなりの高頻度で自律的に収縮運動をする多層筋線維構造を有することを明らかにしている。そこで、発生の各過程における拍動パターンを拍動数(拍動周期)、拍動の強さに着目して解析した。 3.単一筋線維前駆細胞への物質注入による筋線維形成の解析多層化筋線維形成の過程において、線総状に細胞が分化する前に球場の細胞が発現することを見出した。この細胞が前駆細胞であることを確認するために、マイクロインジェクション法を用いて球状細胞にEGFP遺伝子を導入し、その後の成長過程を解析した。その結果、球場細胞は培養するにつれて線総状の細胞となり、隣接した細胞と同期して拍動することがわかった。また、線総状の細胞は多核、二股の形状であることから心筋細胞の特徴を有していることがわかった。これらのことから、球状の細胞が筋線維の前駆細胞ではないかと考えられた。
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