本研究では、ゼブラフィッシュをモデル動物として、受精卵(1細胞)からの発生・分化過程という「時間的・空間的な動態」におけるミリスチル化脂質修飾酵素ならびにその標的タンパク質を介した時空間動態の定量的解析法の確立を目指した。 そこでまず、ゼブラフィッシュの初期発生過程におけるN-ミスチル転移酵素(NMT)遺伝子による初期胚内のミリスチル化を観察するために、蛍光タンパク質(GFP)にミリスチル化モチーフ(M-G-X-X-X-S/T)を付加した融合タンパク質を当研究室で開発した孵化腺特異的な発現ベクター(pZex)で発現させた。その結果、受精後72時間の初期胚においてミリスチル化モチーフを保有しない野生型GFPでは蛍光が完全に消失していたが、ミリスチル化モチーフを持つGFP融合タンパク質では受精後72時間においても細胞膜上に蛍光が検出されていた。以上の結果から、ゼブラフィッシュ孵化腺では自然なミリスチル化が起こっており、様々なミリスチル化標的タンパク質を発現させることで、ミリスチル化タンパク質のバイオイメージングが可能になった。 さらに、ゼブラフィッシュNMT遺伝子に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ(MO)およびsiRNAを合成して遺伝子ノックダウンを行い、得られた受精後48時間の胚を用いたDNAチップによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。すなわち、MOはNMTの翻訳を阻害し、siRNAはNMT遺伝子の転写・合成を阻害する。また、MOおよびsiRNAによるNMT遺伝子ノックダウンによる両者の表現型はほぼ同様であったことから、遺伝子発現レベルの影響を調べることで、NMT遺伝子ノックダウンによる表現型に必須の遺伝子群を同定できると考えた。その結果、MOおよびsiRNAでともに上昇する遺伝子、あるいは、ともに減少する遺伝子が得られたので、今後はこれらの遺伝子を基にしてタンパク質ミリスチル化の制御について定量的解析を併せて検討していく予定である。
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