分子認識能を有する蛋白質や核酸を適当な蛍光団などで化学修飾することにより、様々なテーラーメイドのセンサー分子が設計可能であり、細胞内情報の可視化やこれに基づく生理活性物質のハイスループット検出への応用が期待される。しかし、このような分子を効果的に細胞に導入する方法がないことが実用化の障害になっている場合も多い。申請者は、アルギニンペプチドを移送ベクターとして蛋白質や様々な分子を細胞内に導入する際に、ピレンブチレートなどの疎水性対イオンを共存させることにより、導入効率は数倍から数十倍に向上することを見いだしている。本年度は、この方法を応用して、15Nラベルしたタンパク質(ユビキチン)を細胞内に導入し、NMRを用いて細胞内でのタンパク質の姿をその場計測することに世界に先駆けて成功した。また、この方法が細胞内の薬物とタンパク質の相互作用を解析することや、タンパク質のフォールディングの安定性の検討にも応用出来ることを示した。一方では、既存のタンパク質とアルギニンペプチドとの架橋体をワンポットで容易に形成する試薬の開発にも成功した。さらに、アルギニンペプチドの代わりにpH感受性膜融合ペプチドを移送ベクターとして用い、カチオン性リポソームを取り込み時に介在させることで効率よい細胞内移送を達成する新しい系を開発した。アルギニンペプチドは塩基性、pH感受性膜融合ペプチドは酸性アミノ酸に富むために、導入する物質の荷電状態に応じて使い分けることも可能と考えられ、細胞内可視化・ハイスループット検出系創出のための効率的細胞導入法の開発に成功した。
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