細胞のシステムとしてのメカニズム解明の鍵を握る性質の1つと考えられるのは、細胞表面の局所的なイオンチャネルや親水性/疎水性などに関連した電位情報である。細胞を生きたまま観察できる原子間力顕微鏡に、表面電位を計測する機能が付加されれば、生体細胞ダイナミクスの本質を探ることができ。本研究の目的は、『探針や細胞表面との間で電荷の授受を行うことなく、細胞の表面電位を高感度・高分解能に画像化する新しい計測技術を開発すること』である。具体的には、光異性化反応で分極の有無が切り替わるフォトクロミック材料で顕微鏡探針を修飾し、外部からの刺激光により探針の分極を切り替えることにより、細胞表面の電位を計測するという新しい原理に基づく計測技術を開発することをめざす。具体的には、以下の課題について検討した。 1)コヒーレンスの抑制による原子間力顕微鏡の低ノイズ化 細胞の表面電位測定においては、顕微鏡の力検出感度の向上が必要不可欠である。そこで、半導体レーザにRF変調を重畳し光の可干渉性を抑圧することにより、変位検出計の低ノイズ化を実現した。 2)顕微鏡探針へのフォトクロミック材料の固定化方法の検討 フォトクロミック材料として、スピロピランとアゾベンゼンを取り上げ、これらを探針に高密度に固定化する方法について検討した。密度が低すきずると、有効な分極が生じない可能性があり、他方、密度が高すぎると、構造転移を起こす際の立体障害により有効な分極が生じない。安定・強固であると同時に、異性化反応時の空間的自由度を確保できる探針修飾を実現した。 3)外部光による分極制御とその力学的検出の確認 試料と探針の関係を反転させ、顕微鏡探針の代わりにSi基板をフォトクロミック材料で修飾し、光学マスク上から励起光を照射してパターン状に異性化反応させ、分極変化による電子変化をケルビンプローブ法により力学的に検出できるかを確認した。
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