研究課題
本研究で開発したキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)によるメタボローム法は、解糖系、クエン酸回路、ペントースリン酸回路、アミノ酸生合成や核酸生合成経路の代謝中間体を網羅的に測定することが可能である。一方がん細胞は酸素が存在していても、酸化的リン酸化ではなく、解糖系によってATPを生産する(Warburg効果)ことが知られている。そこで、国立がんセンター東病院江角浩安院長との共同研究で、大腸がんと胃がん患者から採取したがん組織と正常組織のメタボローム測定を行い、がんの代謝を解析した。その結果、Warburgががんの培養細胞で示したようにがん組織で大幅なグルコースの減少、乳酸の蓄積が認められ、ヒトのがん組織でも解糖系が有意に亢進している(Warburg効果)ことが示唆された。また、クエン酸回路で興味深いデータも得られた。大腸ではがんも正常組織もクエン酸回路の前半の代謝物質はほとんど検出されなかったが、胃ではこれらの代謝物質はがんも正常組織も十分存在していた。ATP量も胃に比べ大腸では10倍以上低かった。マウスでは胃より大腸の方が酸素分圧が5倍程度低い報告があり、大腸では酸化的リン酸化によってATPをあまりつくっていないことが示唆された。一方、クエン酸回路の後半の代謝物であるコハク酸、フマル酸、リンゴ酸は、大腸のがん組織で有意に高かった。この現象は、嫌気的な環境下で生息する微生物や回虫の代謝と似通っており、血管がなく酸素濃度が低いところに増殖するがん細胞も、嫌気的な生物が使っているあるいは似かよった代謝を使ってATPを生成していることが示唆された。
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