マウス繊維芽細胞C3H10T1/2の骨格筋細胞分化において、インシュリン様増殖因子IGF-IIは細胞外に分泌され、自己分泌によりIGF-I受容体への結合し、最終的にmyoD遺伝子発現を亢進する作用が報告されている。このようなシグナル分子の伝搬と結合は、細胞の分化状態を表現するマーカーとして有用である。本研究では、5-アザシチジンによりC310T1/2細胞を骨格筋細胞に分化誘導し、分泌されたIGF-IIが細胞表面の受容体への結合した状態を力学的に評価する手法を開発した。抗IGF-II抗体を修飾したAFM探針を用い、これを細胞に接触させ、強制的に受容体-リガンド-抗体の複合体を形成させる。これを引き離す際に発生する相互作用破壊に要する破断力を測定することで評価を行った。 マウス繊維芽細胞C3H10T1/2を培養3日後に20μM5-アザシチジンにより48時間処理する。その後、通常の培地で2日間培養し、さらに筋細胞分化を促進するため、20nMのジヒドロテストステロンで処理した。この培養過程の初期段階におけるIGF-IIの分泌・結合の検出を試みた。細胞への接触・圧入動作に用いるAFM探針は先端を平坦にエッチングしたものを用いた。抗IGF-II抗体により修飾した探針を用いて力学検出を行った結果、5-アザシチジン処理前には、破断力が平均で30pN以下であったことに対して、処理後は112pNに上昇し、培地交換を行い20nMのジヒドロテストステロンで処理すると30pNに減少した。細胞表面の受容体へ結合したリガンド分子は力学的に検出することができ、AFM探針の接触という非侵襲的動作で細胞状態の分析が可能であることが示された。
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