遷移金属原子間を共役系有機配位子で架橋した高分子錯体は、π-軌道とd-軌道の相互作用によって多彩な構造や電子状態を生み出すことができ、新しい機能性材料の構成ユニットとして注目されている。申請者らはこれまでに様々な共役アセチレンを架橋配位子とする有機金属高分子錯体の精密合成についての系統的に検討してきた。本研究では、優れた電気化学的特性を有する遷移金属錯体とレドックス反応に伴う構造変化に柔軟に対応できるように分子設計した共役アセチレン架橋配位子を組み合わせて、新しい有機金属ハイブリッド型共役ポリマーを創出し、その特性・機能を明らかにすることを目的とする。昨年度、新たな構成単位としてトリ(エチニルフェニル)アミン架橋3核ルテニウムアセチリド錯体を分子設計した。今年度は、この3核ルテニウムアセチリド錯体を構成単位とするデンドリマーの合成へ展開した。合成法にはコンバージェント法を採用し、トリメチルシリル基とトリイソプロピルシリル基を末端アセチレンの保護基に用い、パラジウム触媒によるアリール基のアミノ化反応を組み合わせて、分子内に21個のルテニウム原子を含む第2世代デンドリマーまで精密合成することに成功した。各世代デンドリマー並びにモデル錯体の電子スペクトルを比較したところ、分子内に9個のルテニウム原子を含む第1世代デンドリマーまでは、分子内のルテニウム原子数が増加するに従ってルテニウムアセチリドのMLCT吸収帯の極大波長が長波長シフトする傾向が見られたことから、デンドリマー分子内でのルテニウム種間の相互作用が示唆された。サイクリックボルタンメトリーでは多段階の酸化還元挙動が観測され、酸化還元滴定によって第1世代デンドリマーでは3電子酸化、第2世代デンドリマーでは7電子酸化した状態が安定であることが分かった。今後、混合原子価状態でのデンドリマーの特性について検討する予定である。
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