申請者は、効率的な分子間相互作用を考慮した分子設計に基づいて低分子ゲルと呼ばれる一連の物質群を開発してきた。本研究は、電子的に活性な導電性・半導体性・発光性芳香族化合物を核に持つ分子をモチーフに低分子ゲルをはじめとする超分子相分離構造を構築することを目的としている。昨年度までに没食子酸誘導体をゲル化駆動部位とし、半導体性の金属錯体である8-キノリノール金属錯体を導入して多様な溶媒を固化する良好なゲル化剤を開発した。常温リン光性を有するPt類縁体のゲルは、酸素によるリン光の消光が著しく抑制された。Pt・Pd・Cu類縁体のゲルは、ある閾電圧でそれぞれ半導体性を有する低分子ゲル繊維の先端からの電子の放出(電界電子放出)が確認された。本年度は、没食子酸誘導体が与える一次元分集合体が内部に一次元状の空孔を与える点に着目し、導電性高分子やDNAなどのポリマーをゲスト分子と見なし、この一次元状ホスト空間への包接を試みた。研究初年度となる今年度は、試験的に、ゲル化を促すために長鎖アルキル基と水素結合部位であるアミド基を導入した没食子酸に対し、内面空間に接する位置にカチオン性官能基を導入した。得られたカチオン性ゲル化剤に対し、別途合成したアニオン性ポリチオフェンを混合してゲル化試験を検討し、一次元構造の詳細を共焦点レーザー顕微鏡にて検討し、反射モードで得られた繊維状組織に沿って、ポリチオフェンに由来する蛍光発光が観察される事を示した。
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