研究概要 |
DNA多型情報を利用した本人認証のためには,種々の多型マーカーによる個人識別用データベースの構築が先決となる.そこで,今年度は性染色体であるX染色体上に存在するshort tandem repeat (X-STR),およびY染色体上のsingle nucleotide polymorphism (Y-SNP)について,いずれも血縁関係のない日本人試料を用いて多型解析を行った.なお,男性はX,およびY染色体を1本ずつ持ち,女性はX染色体を2本持つことから,Y染色体多型は男性のみに言えることになる.X-STRについてはボランティア516名(男性309名,女性207名)の試料についてDXS7132,DXS7423,DXS8378,DXS10074, DXS10101,DXS10134,DXS10135およびHPRTBのX-STR8座位の解析を行い,個人識別用マーカーとしてのその有用性を確認した.また,Y-SNPについては,Fast TaqMan法を用いて計24SNP座位の解析を行った.その結果,243名の日本人男性試料は,アジア人に多くみられるC,O系統と日本人に特徴的なD系統に分類することができ,さらにそれら系統の下流に存在するハプログループへの細分化も可能であった.以上より,X-STR8座位,およびY-SNP24座位のデータベース,およびそれらの多型解析系を確立することができた. さらに,DNA多型情報による本人認証のモデルケースとして,パスポートへの応用を検討した.高い個人識別精度を持ち,加えて偽造が困難であるというDNAを用いる利点を最もよく発揮できると思われるからである.また,DNAの解析時間に30分を要することから,それを許容できる用途であるという点も考慮する必要があった.本年度はパスポートへ搭載するDNA情報をハッシュ関数処理後,公開鍵暗号方式を利用する方法等を検討・考察した.
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