研究概要 |
本研究では、高い頑健性を示す形状知覚の皮質メカニズムを計算論的に理解し、これを実画像に適応できる画像理解アルゴリズムとして提案した。特に, 頑健性の基礎となるのは, (1)多様性を持つこと、(2)疎表現(sparse coding)をもつこと, であるとの独創的な提案を行った。「必ずしも答えないが、嘘はつかない」という皮質細胞の性質は、前段の細胞数は多数でも同時に入力される信号は少ないという疎表現といえる。これが頑健性の基礎となっていることは、脳科学として革新的であるばかりでなく、情報学的にも高い学術的価値をもつ。 具体的には, 中心軸による形状表現に注目し, 中心軸に沿ったMA細胞が同期して均質領域を表現できることを示した。図方向細胞モデルの同期によって生じる物体周囲と, その内部にあるMA細胞モデルの同期によって表現される均質領域が, 群化・統合される過程を計算論的に検討した。この結果, 周囲検出(BO)細胞が刺激呈示時に同期することによって, BO細胞からの距離が等しい中心軸上でMA細胞の発火を生じさせることが判った。この同期制約が図方向知覚に与える影響を, 心理物理実験によって検証した。その結果, 同期が図方向知覚を導くことが示された。 さらに, 疑似ランダム刺激と計算統計的手法・多変量解析を利用した心理物理実験・解析によって, 図と知覚されやすい形状因子を定量的に明らかにした。同じ刺激についてシミュレーションを行ない, モデルの同期程度のランクと比較したところ, 良い一致をみせた。これらの結果から, 多様性と疎表現が皮質における形状知覚の計算論的本質である可能性が示された。この形状知覚アルゴリズムを自然画像に適応したところ, 形状知覚における中心軸検出精度は70%,形状の再構成誤差は20%と, 高い頑健性を示した。
|