研究概要 |
巨大ひずみの機構解明には微細組織および欠陥制御の両面からのアプローチがある。欠陥に関しては従来の転位論での限界を克服するには空孔挙動を解明することが必要である。陽電子は空孔型欠陥の直接的な高感度プローブであるが,これまではバルクの平均情報を与えるにとどまっていた。本研究では,陽電子を局所分析可能なプローブとしてマイクロビーム化を実現し,巨大ひずみを施した試験片の二次元空孔分布を計測し,機構解明に資することを目的としている。今年度は,数mm径の陽電子ビームを数十μmまで高効率で縮小する要素技術を開発し,さらに産業技術総合研究所の加速器ベースの陽電子ビームを用いて,10mm径の陽電子ビームを100μmまで縮小し,二次元陽電子寿命分布(すなわち二次元欠陥分布)を求めることを試みた。 放射性同位元素22Naを用いて,輸送用のヘルムホルツコイルと一次集束用の電磁レンズとの間の磁場を調整することにより電磁レンズの焦点距離に合致したビーム軌道を得ることを着想した。そのための引出コイルを設置し,最適条件を求めた結果,80%以上の効率で縮小率1/10を得ることができた。電磁レンズに集束された陽電子は150nm厚Ni(100)薄膜に入射され,陽電子の負の仕事関数という性質により裏面から薄膜法線方向に再放出される。その後静電レンズにより輸送集束され,電磁レンズで試料表面に集束された。その結果,ビーム径は60μmまで集束することができた。 本要素技術を加速器陽電子源に応用し,その性能を評価した。その結果,空間分解能は100μm程度まで向上し,二次元寿命分布が数時間で測定可能であった。Fe系の材料でマルテンサイト変態するひずみ量50%の試料で空孔分布計測を実施中である。今後,さらに空間分解能を向上し,ボールミル加工後の表面からの空孔分布,磨耗材料の表面からの空孔分布などを測定予定である。
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