研究概要 |
極低炭素IF鋼は,ARB(Accumulative Roll Bonding)法により結晶粒径を1μm以下にして,引張強度を出発材の約3倍に増加させることが可能である.しかし,一般的に,鉄鋼材料は強度レベルの上昇とともに,外部環境中から材料内部に侵入する水素が関与する「遅れ破壊」と呼ばれる脆性破壊を,極めて低い応力レベルで起こすことが知られており,上記超微細粒鋼での発現が懸念されている.したがって,本研究では超微細粒材料の環境脆化と侵入水素量との関連性を明らかにするとともに,水素による脆性破壊の機構も解明していくことを目的として研究を行った. 供試材として極低炭素IF鋼(出発材)とその5サイクルARB材を用いた.供試材より作製した引張試験片に電気化学的に水素チャージを行い,室温大気中,ひずみ速度3.3×10^<-4>s^<-1>の条件で引張試験を行った.この試験より,破断ひずみと破面形態に及ぼす侵入水素量の影響を調査した.水素チャージは,pH2.5のH_2SO_4水溶液中で,25℃,電流密度50A・m^<-2>,水素チャージ時間0〜259.2ksの条件で行った.また,試験片中の侵入水素量を昇温脱離ガス分析装置(TDS)により分析した. 上記条件で水素チャージを行った場合の出発材(0サイクル材)の侵入水素量は,水素チャージ時間を増加させてもほとんど増加せず,水素の侵入が極めて困難であることがわかった.しかし,5サイクルARB材の侵入水素量は,水素チャージ時間の増加にともなって増加した.また,水素チャージしない試験片での破断ひずみで規格化した破断ひずみ比(遅れ破壊ひずみ比)で環境脆化感受性を評価すると,出発材(0サイクル材)では水素チャージ時間を増加させても遅れ破壊ひずみ比に変化はなく,5サイクルARB材では,水素チャージ時間の増加にともなって遅れ破壊ひずみ比が減少し,環境脆化感受性が増加した.
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