研究概要 |
極低炭素IF鋼は, ARB(Accumulative Roll Bonding)法により結晶粒径を1μm以下にして, 引張強度を出発材の約3倍に増加させることが可能である. しかし, 一般的に, 鉄鋼材料は強度レベルの上昇とともに, 外部環境中から材料内部に侵入する水素が関与する「遅れ破壊」と呼ばれる脆性破壊を, 極めて低い応力レベルで起こすことが知られており, 上記超微細粒鋼での発現が懸念されている. したがって, 本研究では超微細粒材料の環境脆化と侵入水素量との関連性を明らかにするとともに, 水素による脆性破壊の機構も解明していくことを目的として研究を行った. 5サイクルARB焼鈍材に86.4ks水素チャージを行うと, 焼鈍温度の増加にともなって侵入水素量が減少した. また, 引張試験の結果から破断ひずみ比は焼鈍温度の増加にともなって増加し, 773K以上の焼鈍により約0.8まで回復した. とくに, 5サイクルARB材の結晶粒内の欠陥の回復が起こる焼鈍温度範囲で破断ひずみ比が著しく増加したことから, 結晶粒内の欠陥に捕捉された水素が水素脆化に著しく関与すると考えられる. 773Kの温度で焼鈍を行った5サイクルARB材の引張強度は5サイクルARB材の引張強度より減少するが, 出発材の引張強度の約2.3倍に相当する680MPaに達する. したがって, 5サイクルARB材は侵入水素により水素脆化感受性は増加するが, 773Kの温度で焼鈍を行うと超微細粒鋼としての引張強度を保持したまま水素脆化を起こしにくい材料になることが明らかになった.
|