研究概要 |
本研究の目的は,スケーリング則の枠を超えた新機能デバイスとして,半導体べース・スピントロニクス素子(スピンMOSFET,スピントランジスタ)を開発することである。これらの素子は,既存の半導体テクノロジーでは実現不可能なデバイス(再構成可能な論理回路や高密度不揮発性メモリ等)への応用が期待されている。本年度は,Fe/半導体(100)接合および強磁性シリサイド/Ge(111)接合について,電子状態・磁性およびスピン依存伝導現象を調べた。得られた主な成果は以下の通りである。 1.Fe/半導体(100)接合:Fe/Si接合について第一原理計算により電子状態を調べた。シリサイドが形成されないエピタキシャルな接合の場合には,界面Feは1.5から2.8[ボーア磁子/原子]の磁気モーメントを持つことが明らかとなった。また,得られた電子状態を用いてFe/n-Si接合の電流を計算したところ,高スピン偏極電流が得られた。また,この結果はFe/MgOトンネル接合の場合と同様に,ブロッホ波の対称性(Δ1バンド)によって理解できることも明らかとなった。 2.強磁性シリサイド/Ge(111)接合:DO3型構造のFe3SiおよびCo3Siに対して電子状態を計算した。(111)配向の接合を考えた場合,Geの伝導帯下端はΛ1バンドである。Fe3Siの場合には,Λ1バンドはハーフメタル的な電子状態にはなっていない。一方,Co3Siの場合には,Λ1バンドはほぼハーフメタル的となっていることがわかった。このことから,エピタキシャルなCo3Si/Ge(111)接合を作成することができれば,Fe3Siを用いた場合よりも,より高いスピン偏極率の電流,あるいはより大きな磁気抵抗効果が得られると予想される。
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