一般に、シリコン上の自己組織化単分子膜(Self-assembled Monolayer:SAM)形成プロセスは2次元的成長が優位におこるとされ、そのため、前駆体となる分子のC3対称性が必要とされている。本研究ではシリコン上のSAMの成長過程において前駆体分子の対称性がどのように影響するかを実験的に検証した。さらに、SAMの成長メカニズムを利用して2種類の前駆体分子からなる2元系SAMを作製し、このSAMの表面電位について調査した。 前駆体分子の対称性の検討では、前駆体としてC3対称性のOTS、C2対称性のODCS、C1対称性のODMSを用いた。これらの分子のトルエン溶液にシリコン基板を湿度50%下で浸漬しSAMの作製を行った。続いて、これらのSAMの表面形状を走査型プローブ顕微鏡により観察した。OTSの場合ではSAMの初期過程でドメイン構造が形成され、それが次第に融合し均-な膜となることがわかった。一方ODCSおよびODMSでは終始、ドメイン構造は見られなかった。さらに膜面内の結晶性をX線回折によって評価したところ、OTSの場合のみアルキル鎖に由来する規則構造が見られた。このOTSのドメイン形成と面内の規則構造は、C3対称性のOTS分子同士が膜内で2次元的にネットワークを形成するために現われる。C2、C1対称性の分子の場合では、分子間でそれぞれ1次元(線)あるいは0次元(点)的に重合するため、面内に広がったドメイン構造を形成できないと考えられる。 このようなOTSのドメイン形成を利用することで、バウンダリー界面を有する2元系SAMの作製に成功した。ここではOTSとAHAPSの2元系SAMを作製した。このSAMの表面電位をケルビン力顕微鏡により計測したところ、OTSとAHAPSのドメインで表面電位が異なり、膜内での表面電位の分布は不均一であることがわかった。また、ドメインの境界では表面電位は不連続であった。これらの結果は、OTSのドメイン形成を利用することでSAM内に明確なバウンダリー界面を形成できることを示している。
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