本研究では、共鳴効果の期待できるチオカルバモイル基を新たに導入したアルキン基質を前駆体としてこれまで達成されていない二つのカルベン錯体の発生とそれらの反応を利用した新しい触媒反応を検討した。まず、ビニルカルベン錯体が鍵中間体となり進行するカルベン移動反応を利用して複素環の開環反応を検討した。その結果、対応するアセタートでは全く反応が進行しないのに対して、2級チオカルバミン酸O-プロパルギルでは効率的にフラン開環反応が進行した。一方、対応するカーバマートではその収率は中程度にとどまった。チオカルバミン酸O-プロパルギルで効率良く反応が進行する理由として、チオカルバモイル基の共鳴効果が硫黄の求核性を向上させ、ビニルカルベン錯体の発生に効果的に働いたと考えられる。次に、種々の触媒を用いて2級チオカルバミン酸O-プロパルギルの反応を検討した。ルテニウム錯体の他、ロジウム、金、および白金錯体もフラン開環反応に活性があった。特に塩化白金触媒を使うと、種々の2級チオカルバミン酸O-プロパルギルが収率良くフラン開環生成物を与えた。一方、ピロール類との反応では2種類のピロール2位での置換反応生成物をそれぞれ与えた。この結果は、ビニルカルベン錯体がアリルカチオンの性質を持つことを示している。次に、チエニルカルベン錯体の発生を検討した結果、ロジウムや金錯体を触媒に用いるとチオカルバモイル基を持つエンインから効率良くチエニルカルベン錯体が発生することを見出した。このチエニルカルベン錯体の発生法は、既に見出しているフリルカルベン移動反応のほとんどの反応形式に応用できる。特筆すべきことに、カルボニル基とチオカルバモイル基を持つジエンインからフリルチオフェンが良好な収率で得られた。これをカップリング反応へと応用するとソルバトクロミズムを示す化合物群を容易に合成できた。
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