研究概要 |
アミロイド線維は,βシートコンホーメーションをとった蛋白質が多数集積して形成された,マイクロメートルオーダーの線維状集積体である。脳内に蓄積することにより,アルツハイマー病や狂牛病などの神経変性疾患の原因となる。このため,凝集体形成のメカニズムや凝集体が生理活性に及ぼす影響を明らかにすることが急務となっている。最近,蛋白質凝集体を対象とした生物化学的な実験が多数行われているが,これらのメカニズムを解明するためには,物理化学的な観点からの研究が欠かせない。たとえば,凝集体の核形成とその安定性,臨界核の成長,線維状凝集体が細胞内溶液に及ぼす摂動の効果,および,これらに対する水分子の役割などである。これらの現象に対して,本研究では,高分子物理化学の立場からのアプローチを行っている。 今年度の課題研究においては,アミロイド線維のモデルとしてポリ-L-グルタミンをとりあげ,分子動力学(MD)シミュレーションを用いて,凝集体表面の溶媒和構造を解析し,凝集体が水の構造やダイナミックスに及ぼす影響を明らにした。さらに,種々の生理活性分子の水和構造が凝集体の形成する分子場から受ける影響を調べるために,神経伝達物質として知られるドーパミンを対象として,分子軌道法(MO)計算により水和構造の解析を行った。さらに,ドーパミン水溶液についてMDシミュレーションを行い,MO計算との対応について検討した。また,医学的により実際的な系として,アルツハイマー病アミロイドβ(Aβ)蛋白質凝集体の水和構造の解析にも着手した。
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