研究課題
量子・古典論を組み合わせた計算手法を開発し、同方法を光機能性蛋白質の励起状態に応用した。レチナール蛋白質はヒトの視覚やバクテリアのプロトンポンプ等で重要な機能を果たすが、蛋白質の環境に応じて、大きく光吸収エネルギーを変化させることが知られている。今回、我々の方法によりレチナール蛋白質の光吸収エネルギーを定量的かつ系統的に計算することに初めて成功した。これにより、レチナール蛋白質の光吸収特性に関する定量的な解析を行うことができた。種々のレチナール蛋白質における励起エネルギーを色素の構造ひずみ、蛋白質の静電的環境、カウンターイオンとの量子的相互作用の3点に分割して解析を行った。その結果、蛋白質との静電的な相互作用がスペクトル・チューニングに最も重要な役割を果たすことが明らかになった。レチナール蛋白質の励起状態は分子内電荷移動性が強いため、蛋白質による静電的な環境を敏感に反映する。レチナール結合サイトの静電環境は蛋白質により異なるため、多様な光吸収エネルギー示す原因になっている。蛍の蛍光色は発色団であるオキシルシフェリンによる。オキシルシフェリンの発光色は化学発光に関する実験結果を基に、ケト・エノール互変異性により説明されてきた。しかし、近年、エノール型への変換が抑制されたケト型オキシルシフェリンの生物発光において、通常の黄緑色発光が観測されて、従来説が疑問視されてきた。我々の方法を蛍の発光に応用し、北アメリカ蛍のケト型ルシフェリンが、化学発光では赤色、生物発光では黄緑色発光することを理論計算により示した。基底・励起状態の電荷分布と蛋白質の静電ポテンシャルの相互作用が発光色の変化に重要な寄与をしていることが明らかになった。更にこの結果を基に、ルシフェリンの分子設計を行った。アミノ酸残基を置換することにより活性中心の静電場を制御し、赤オレンジ色の発色を示すと期待されるミューテーション実験を提案した。
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Radiation Induced Molecular Phenomena in Nucleic Acid: A Comprehensive Theoretical and Experimental Analysis (印刷中)
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