研究概要 |
本研究の目的は、大気ダスト経由の鉄供給が亜寒帯域表層の鉄濃度の変動にどのように寄与しているかを定量的に評価することである。研究期間内に次のI)〜III)の項目について研究を行った。I)親潮海域の定線観測(Aライン観測)において、表層鉄濃度の季節的変動を含めた時系列観測を継続して行った。II)実海域の海表層付近の大気ダスト中に含まれる鉄量の季節的な変化を観測するとともに、海水中で大気ダストから鉄がどの程度溶出してくるかを、室内実験および船上実験において検討した。III)IIのデータおよび、季節毎の親潮海域へのダストの沈着量を、Iで得られる表層鉄濃度の季節的な変動とともに解析することで、大気ダスト経由の鉄供給が亜寒帯域表層の鉄濃度の変動にどのように寄与しているかを定量的に評価した。 これらの内容を含む本研究の結果より、当概海域の季節的な鉄濃度の変動とダストおよび海洋内循環の供給過程の寄与が明らかになってきた。親潮域表層の鉄濃度の季節的な変動は概ね次のように説明できる。親潮域では, 冬季の鉛直混合の活発な時期に下層から表層に供給され, 春季のブルーム期にほぼ枯渇するまで減少する主要栄養塩と同様のサイクルを示す。しかし, 各観測時の測点間のばらつきは明瞭であり, 冬季に詳細なマッピングを行った結果, 鉄濃度の変化は水塊の違い(混合層の発達過程の違い)にも支配されていることが分かってきた。これらの結果は, これまで考えられてきた大気経由の鉄供給に加えて, 冬季の混合過程, 水塊の水平移動, 亜表層の鉄循環などのプロセスが海洋表層の鉄濃度の変化を引き起こす重要な要因になっていることを示している。これらの結果は, 大気から海洋表層への鉄供給を評価するためには, まず海洋循環で決まる鉄濃度のバックグランド変動を把握した上で, 大気からのシグナルを抽出することが重要であることを示している。
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