研究概要 |
比較的データ点数が多く,また先行研究で興味深い変動が報告されている溶存酸素について;日本海において予備的な格子化データを作成し,解析を行った.溶存酸素には先行研究と共通する十年スケール変動が見られる一方,等密度面解析を行った先行研究で顕著であった溶存酸素の減少トレンドは,今回行った当深度面解析では見られなかった.このことは,等密度面での溶存酸素の減少トレンドは,水温に見られる昇温トレンドが影響して密度面が下降することによって生じていることを強く示唆している.また,溶存酸素の十年スケール変動の振幅は,先行研究ではカバーされていなかった対馬海盆で最も振幅が大きいことが明らかになった. 溶存酸素は本研究で対象とするパラメータでは最もデータ点数が多いが,最も少ないのは海洋酸性化で注目を集めるpHである.そこでpHにっいて北太平洋日本周辺領域のpHを詳しく調べた.その結果,pHは格子化がしばしばなされる酸素・塩分,あるいは格子化が一部の研究者によってなされはじめた栄養塩や溶存酸素と大きく異なり,季節変動が不明瞭であることが明らかになった.この結果は,格子化において標準的な手法である,先に気候値を作成した上でそれからの偏差を格子化するという手段の適用には慎重であるべきことを示唆している. また,栄養塩等の変動の解釈に重要な海洋循環などの変動について,南太平洋の海洋変動が熱帯からのテレコネクションで引き起こされていることを明らかにした.これは従来提案されていた,南極振動によって南太平洋の変動がもたらされるという説とは,大きく異なる結果である.
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