電気泳動測定は、荷電粒子(コロイド・タンバク質・DNAなど)のキャラクタリゼーションや分離にとって有用な手法であり、古くからその基礎付けとして国内外で理論・数値計算を用いた研究が広くなされてきた。本研究の主な目的は、電気泳動下における荷電粒子の不規則な運動の起源を明らかにし、それを抑制する手法を開発することである。 まず、粒子運動・流れ場・塩濃度を同時に解く荷電コロイド分散系の数値シミュレーション法を開発し、これを用いて一様電場下における電気泳動現象を調べた。電場を印加しない状況下では、荷電コロイドは粒子間に働く静電斥力相互作用のために結晶構造を形成する。ここで、電場を印加すると、弱い電場下ではその結晶構造を保ったままコロイド粒子は平行移動する様子が見られたが、強い電場下ではその結晶構造が溶け、粒子の運動がばらつく様子が観測された。電荷を持たない微粒子は、重力による沈降現象などで見られるように、流体力学的相互作用により粒子の運動は時間・空間的に乱れることが知られており、我々は、この荷電系で見られた不規則な粒子運動も同様に、流体力学的相互作用に起因するものであると考えた。しかしながら、荷電系においては無荷電系と異なり、粒子間に働く静電斥力・塩添加による流体力学的相互作用の遮蔽効果などが、系の振る舞いに大きな影響を及ぼす。そのため、低塩濃度領域と高塩濃度領域では、不規則な運動の中にも違った振舞いをしめすことが予想される。次年度は、この振舞いの物理的起源について定量的レベルでの解明に努めたいと考えている。
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