ソフトマターとしての生体膜は、環境に応じた様々な形状や、融合・分裂等の膜変形、膜面上でのドメイン構造形成などの多様な現象を生じる。我々は、生体モデル膜として多成分ベシクルを用いて、膜構造ダイナミクスの実験的研究を行った。細胞が物質を取り込む過程(エンドサイトーシス)は、脂質膜の内包変形および内包された小胞の分裂からなる動的な膜構造変化であり、この膜内包機構のひとつとして膜面内に存在するミクロドメイン構造(脂質ラフト)が近年注目されている。このドメイン構造は脂質多成分系における膜面内相分離構造体であると考えられ、巨大ベシクルによるモデル研究が進められてきている。我々は、ドメインを持つ脂質多成分巨大ベシクル系において、外部刺激(浸透圧および界面活性剤)による応答を蛍光顕微鏡でリアルタイム観察した。結果、ベシクル上のドメインが内側に向かって自発的に出芽するプロセスを見いだした。この内包過程はドメインサイズに依存し、「ドメイン陥入による内包(simple budding)」と「ドメイン境界からの連続的小胞放出(wavy budding)」の2つのパターンに分けられた。また、wavy buddingにより形成された膜小胞は単分散のサイズ分布を示した。これは、サイズのそろった小胞を生み出す力学的性質を脂質膜自体が備えている事を示唆する。膜面の弾性エネルギーと相境界エネルギーを考慮に入れた自由エネルギーを用いて、ドメイン内包のメカニズムを説明した。
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