研究概要 |
我々は膜の表面電荷(負の電荷を持つ脂質の膜内濃度や電気的に中性の脂質膜界面に結合する荷電ペプチドの濃度で制御)に基づく静電相互作用によりキュービック相と2分子層膜の多重層リポソーム(MLV)の間の相転移が誘起されることを世界に先駆けて発見している。本研究では,短時間でキュービック相と2分子層膜の相転移を誘起する物質の候補としてH^+を考え,pH変化により2分子層膜からキュービック相への構造転移が生じるかどうかをX線小角散乱法(SAXS)を用いて研究した。 まず,100mM NaClを含む20mM PIPES(pH7.0)中でのジォレオイルボスファチジルセリン(D0PS)とモノオレイン(MO)の混合膜の構造のDOPS濃度依存性を調べた結果,DOPS濃度が低いときはQ^<224>相(Pn3m,D曲面)であったが,16mol%以上のDOPS存在下ではL_α相になった。次に,弱い緩衝能を持つ中性のpHで20%DOPS/80%MO-MLVを作成し,その懸濁液に低いpHの緩衝液(100mMNaClを含む)を加えたときに,この膜の構造がどのように変化するかを調べた。その結果,水溶液の最終pHが2.9以下のときに,L_α相からQ^<224>相への相転移が1時間以内に起こった。また,相転移が終了後,水溶液のpHを中性に戻すとL_α相が再び出現したので,このpH変化によるL_α相からQ^<224>相への相転移は可逆的であることがわかった。さらに,20%D0PS/80%MO膜の一枚膜のリポソーム(LUV)(直径l00nm)が,pHを低くするとQ^<224>相へ構造転移することも見いだした。このpH変化によるL_α相からQ^<224>相への相転移のメカニズムを提案するとともに,相転移が起こる臨界のpHの値について定量的に解析した。このような相転移は細胞中で起こっている可能性が高い。
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