本研究課題では、ナノレベル構造解析技術を開発するとともに、その技術を駆使してIII族窒化物結晶に応用して良質結晶薄膜の成長手法の確立に資することを目的としている.本年度は次のテーマについて研究を行った. (1)AFMによる結晶極性の判定:多くのIII族窒化物はウルツ鉱型結晶構造をなし、[0001]方向に極性を有する。この極性は結晶成長過程や電子特性に大きな影響を与えるため、きわめて重要である。そこで、原子間力顕微鏡(AFM)を応用した極性判定技術の確立を図った.その結果、スパッタAlN膜では成功した。AlN薄膜の圧電特性が成長条件に強く依存するのは、逆位区が混在していることが原因であることを直接確認できた。サファイア基板上のGaNでは良い結果は得られなかった.今後、電極の設置や測定感度の向上などに工夫が必要である。 (2)SEMによる結晶欠陥の解析:走査型電子顕微鏡(SEM)は、広範囲にわたって比較的容易に観察できる特長がある。そこで、SEMのチャネリングコントラストに注目して、結晶内の欠陥組織などがSEMでどのくらい観察できるかを調査した。その結果、GaN結晶では加速電圧を10kV程度とし、角度選択反射電子測定管(AsB)を用いることにより、結晶粒や亜粒界のみならず転位までも観察できることが確認できた。この結果は、将来はSEMがTEM観察の一部を置き換えることになることを示唆している。 (3)GaNおよびAlGaN薄膜の成長過程と転位挙動:本年度は、(1)ストライプ加工したサファイア基板上に成長させたAIGaN、(2)ナノマスクを用いて成長させたELO-GaN、(3)r(1-102)サファイア基板上に成長させた非極性GaNについて、TEMやSEMを用いて、結晶成長の進行に伴う転位の発生・消滅過程を解明した.とくに、成長後期での内部応力の制御がキーポイントになることが明らかにした。
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