我々は高等植物チトクロムb_6f複合体のX線構造解析を目指して結晶化を進めているが、現在までに構造解析可能な単結晶を得ていないので、並行して研究を進めている病原菌のシトクロムbc_1複合体の構造研究について報告する。今回取り上げた、結核菌に代表される高G+C型グラム陽性菌が持つシトクロムbc_1複合体は、ゲノム解析から非常に特徴的なサブユニット構造をとることが報告されている。シトクロムc_1サブユニットと可溶性シトクロムcが天然に融合したシトクロムc_1cサブユニットを持ち、ミトコンドリア型とはある程度異なった分子メカニズムでH^+ポンプ機能を担っている可能性が指摘されている。本研究では、このように特徴的な構造を持つ結核菌型シトクロムbc_1c複合体に注目し、その構造研究に取り組んだ。 シトクロムbc_1c複合体全体の構造解析に関しては、シトクロムc_1cサブユニットの一部が外れて不均一な試料となってしまい易いため、結晶化には成功していない。結核菌型シトクロムc_1cサブユニット単独での構造解析に関しては、大腸菌を用いた大量発現に成功し、精製したサンプルを用いて結晶化を行ったところ、良質な単結晶を得ることができた。KEK-PFの放射光を用いて回折強度データを収集し、Fe-SAD法で位相を決定して、2.9Å分解能で構造解析した。決定したX線構造の特徴を詳細に検討した後、分子内部での電子伝達経路を検証し、他のマルチヘムシトクロムの構造と比較・検討を行った。次に、ミトコンドリア型シトクロムbc_1複合体の複数の結晶構造を参考に、結核菌型シトクロムc_1c周辺の電子伝達経路と分子間相互作用について考察を行った。
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