Na^+/H^+交換輸送体NHE1はNa^+濃度勾配をエネルギーとしてH^+を排出することで細胞内pHなどの調節を行う。増殖因子や発ガン因子による刺激は最終的にNIIE1を活性化して細胞をアルカリ化させる。この活性化にはNHE1のC末端細胞質ドメインにカルシニューリンB類似蛋白質CHPが結合することが必須であり、CHPは細胞内pHに依存した活性化制御を行うpHセンサーとして機能することが示唆されている。そこで本研究では輸送活性のpH依存性が異常なCHP1変異体を用い、そのpH依存性をNMRと分子動力学計算により解析することでpHセンシング部位の同定を目指した。また、活性型となる酸性条件下での構造解析を試み、活性型と不活性型の構造の違いからpHセンシング部位とpHに依存した活性制御メカニズムの解明を目指した。 平成20年度はCHP1/NHE1複合体のpH感受性異常変異体などを用いたNMRによるpHタイトレーション実験を行うために、本研究で開発したpCold-GSTシステムを用いたサンプル調製を行った。今まで分解により発現精製が不可能であったNHE1ペプチドの調製に成功し、そのNMR解析からNHE1ペプチドは単独ではフレキシブルであり、CHP1との結合によりヘリックス構造が誘起されることが明らかになった。一方NHE1はpH依存的な活性制御を受けている。そこでCHP1/NHE1複合体のpH依存性をNMRで解析したところ、pH依存的な立体構造変化が見いだされた。この変化はCHP1とCHP2で電荷が大きく異なるNドメインのNHE1結合面に集中しており、CHPとNHE1との相互作用がpH依存的である可能性を示している。
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