研究概要 |
イオンチャネルタンパク質KcsAのイオン透過時に生じるとされる分子構造変化(分子形態変化)を原子分解能で直接観測する目的で,申請者が開発してきた新規NMR構造解析技術であるDIORITE法を適用するためのサンプル調製技術の確立,および,DIORITE法で高精度の構造解析を行うため計測条件の最適化をシミュレーションにより行った. KcsAの大量発現系を福井大学・医学部・老木教授のグループより恵与いただき,NMR構造解析に最適なサンプルとするための試料調製条件を検討した.SDSを用いて可溶化することで天然状態と同じ四量体の状態でKcsAの大量調製を可能とした.CDスペクトルを用いて四量体KcsAの熱安定性を確認したところ60度付近まで安定に立体構造を保つことも確認できた.NMR測定に供するに十分な試料を調製できる条件を確立でき,次年度の研究め足がかりを作ることができた. DIORITE法は,高磁場での観測で最大の観測感度が期待できるが,同時に化学シフト異方性効果の局所構造依存性に由来する計測誤差が大きくなることが予測される.計算機シミュレーションにより,どの程度観測磁場強度で分子形態計測が最高の精度で行われるかを考察した.その結果,Trosyスペクトルに最高の感度が期待できる800-900MHzクラスの観測脚場で,DIORITE法による分子形態観測も最高の計測精度が期待できることがわかった.
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