研究概要 |
マウスは鼻腔下部にある鋤鼻器官においてフェロモンを感知する。東原らは、オス特異的なフェロモン活性物質を涙腺から単離、精製を行った。その結果、分子量約7kDaの蛋白質を同定し、ESP1と命名した。ESP1をコードする遺伝子は、数十種類からなる新規の多重遺伝子ファミリーの一つであった。ESP1は、G蛋白質共役受容体V2Rによって受容される(Nature,2005)。 構造生物学に基づくG蛋白質共役受容体とリガンドとの相互作用に関する情報は、その重要性にもかかわらず、ほぼ皆無である。その主な理由に、従来の構造生物学的解析を行うために必要な膜蛋白質の可溶化が、しばしば失活や安定性の低下を伴うことが挙げられる。膜蛋白質は、本来脂質二重膜に組み込まれた状態で機能するため、その状態で解析することが望ましい。しかし、その場合分子量は非常に大きくなり、かつ不均一になるため、従来法の適用が困難である。寺沢・嶋田らは、巨大かつ不均一な対象にも適用可能な新規NMR手法である転移交差飽和法を開発した(Methods Enzymology,2004)。一方、昆虫細胞を用いて発現したG蛋白質共役受容体が発芽バキュロウィルス(budded virus: BV)上に機能を保持した状態で発現することが明らかにされている。 本研究は、ESP1の立体構造決定を行い、次にBV上に発現したESP1受容体に転移交差飽和法を適用し、ESP1上の受容体結合面の同定を行う。さらに、ESPファミリー・ESPファミリー受容体間の特異的な相互作用ネットワークを解析し、フェロモンによるマウスの個体認識システムを立体構造の見地から明らかにすることを目的とする。
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