研究概要 |
ヒト・ミトコンドリア内膜のABC輸送体ABCB6は,膜貫通ドメインとABCドメインからなり,鉄の恒常性を保つことで,鉄の蓄積による酸化的損傷を抑えつつ,酸化的リン酸化などのミトコンドリア機能の維持に寄与すると考えられている。一方で大腸菌NikA(56kDa)は,ペリプラズム結合蛋白質(PBP)の一員であり,Ni輸送や走化性に寄与している。 昨年度までの解析によって,ABCB6のC末端ABCドメイン(ABCB6-C)は,apo型およびADP結合型とも,動的構造多形性のために観測されない約25%の残基を除いて,主鎖NMRシグナルの帰属が完了している。また,ホモロジーモデル構造も得られている。本年度は,このホモロジーモデル構造の検証と精密化のために,ADP結合型ABCB6-C試料についてPf1ファージを用いた残余双極子カップリングの測定を行った。また,メチル基選択的プロトン標識試料を作成し,主鎖アミドプロトンと側鎖メチルプロトンとの間のNOE解析も行った。これらの実験結果を基に,高次構造計算プログラムCYANAを用いて,実データに基づいた溶液中の高次構造の算出を試みている。ホモロジーモデル構造と比較して,ABCドメイン内の2つのサブドメイン(nulceotide binding coreとhehcal domain)の相対的位置を正しく決定することができた。 大腸菌NikAについては,走化性受容体Tar細胞質領域の調製に成功した。TarはMethyl-acceptingchemotaxis proteinの一つであり,Niに対する負の走化性に関与している。この試料について現在NMR測定条件の最適化を行っており,^2H/^(15)N標識NikAとTarのタイトレーション実験を進めている。
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