上皮成長因子受容体(Epidermal growth factor receptor:EGFR)の会合状態と情報伝達反応の関係を明らかにするための基礎情報として、会合体のサイズ分布と、運動ダイナミクスを計測した。細胞あたり平均1.5xlO^4分子(細胞表面密度3.3分子/μm^2)のEGFR-GFP蛋白質を安定に発現するCHO-Kl細胞において、1分子蛍光可視化法によりEGFR-GFPの会合体分布を計測したところ、単量体から6量体程度までの会合体が存在し、平均会合数は1.5分子であった。奇数分子よりも偶数分子を含む会合体が高頻度に観察されたことから、2量体が会合体形成の単位である。会合体分布が平衡に達していると仮定して、分子間の解離平衡定数を計算した。単量体間・2量体間の平衡定数は、同程度(2-4粒子/μm^2)であったが、単量体と2量体の間の親和性は低く(20粒子/μm^2)、単量体と3量体の親和性は高かった(0.5粒子/μm^2)。すなわち3量体は非常に形成されにくい。発現密度の異なる細胞集団の比較から、分子密度が高いほど2量体が形成されやすいことが分かった。Latranculin Bによってアクチン細胞骨格を破壊したところ、2量体の解離平衡定数は、無処理細胞の2.4(粒子/μm^2)から0.1(粒子/μm^2)に大きく変化した。すなわち、アクチン骨格はEGFRの2量体形成を阻害する。1分子追跡により観察したEGFRの運動様式には、静止(30%)、限られた領域内での運動(30%)、自由拡散(40%)の3つがあった。自由拡散あるいは領域内での拡散運動の拡散係数は0.03μm^2/s。会合体分布と運動モード、拡散係数の値には相関が見られなかった。この結果は、アクチンによる会合制御が、直接結合ではなく、運動範囲の制限のような間接的機構によることを示唆している。
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