真核生物に普遍的に発現するアクチンは、その単量体の重合反応や、その結果生じるアクチシ繊維がミオシンと相互作用することで、細胞の形態形成や分裂、そして細胞内の物質運搬に必要な原動力を発生する。細胞内におけるアクチン重合の誘導を時空間的に制御する分子として、Arp2/3複合体やフォルミンの存在が知られている。一方、既存のアクチン繊維は、ADF/cofilinなどのアクチン脱重合蛋白質の働きにより再構成されている。本研究では、アクチン細胞骨格の細胞内再編成機構について解析するために、シンプルなアクチン細胞骨格をもっ分裂酵母Schizosaccharomyces.pombeを研究材料に用いた。この細胞では、細胞端や分裂面ではエンドサイトーシスに働くアクチンパッチがみられる。私は、分裂酵母のゲノム情報を検索して、アクチン結合性を保有する可能性が期待できるORFの局在観察から、アクチンパッチの新奇の構成蛋白質AdfXを発見した。AdfXはADF/cofilinと類似のアミノ酸配列から構成される。興味深いことにAdfXの過剰発現細胞では、アクチンパッチが特異的に消失した。この細胞では、アクチンケーブルやアクチンリングは存在していた。リコンビナントタンパク質を用いた解析から、AdfXはArp2/3複合体の活性を抑制することが判明した。このAdfXの生化学的性質は、遺伝子変異株を用いた解析結果からも支持された。一般的なADF/cofilinはアクチンに対して作用するが、AdDXはアクチンに類似したArp2/3複合体に結合して活性を制御する。AdfXに相当する遺伝子は粘菌や酵母・菌類、および動物にのみ存在するようである。おそらく、進化的にこれらの先祖が植物や他の原生生物などと分岐する時点を起源にして、AdfXはADF/cofilinから派生した新たなアクチン細胞骨格制御因子であることが考えられた。
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